ある冬の、ある日。『ぼく』は新しいメモリを買おうと、
ハイパーセンス・ネットワークの電脳ショッピングモールにログインした。いわゆる『電脳秋葉原』だ。
IDとパスを入れて、電脳秋葉原のメインストリートを歩き始めたとたん、
パーツショップやら版画やらアクセサリーやら何やらの売り子がワラワラと群がってきた。
最近の売り子さんは、hstp―ハイパー・センス・トランスファー・プロトコル―を悪用して、
強引な客引きをしてくるから困ってしまう。
こんな人通りの多いところでも、いかがわしい店の客引きみたいに、
強引にブロックして足留めを食わせる。
「ご主人様? なんでしたら二人きりになって、ゆっくり御用を承りますわよ……」
危うく誘惑に負けそうになりつつも、安くてサポートもいいと掲示板で評判の店を目指して、
電脳秋葉原のゴミゴミした露地を奥へと入っていく。
ちゃんと在庫もあって、情報よりも安い値段でお目当ての品を無事ゲット。
即納で、明日の午前中には配達される模様。
新しいメモリと交換すれば、いま使っているこのマシンが時々見せる、
引っかかるような怪しい挙動も解消されることだろう。
最近マシンを新調したときに、メモリだけは古いマシンのものを使い回したのだが、それがいけなかったらしい。
さてと、ここがリアル秋葉原なら牛皿でも食べて帰るところだけど――
ぼくはマウスのホイールを操作して電脳街を駅の方へと戻りかける。
と、ブラクラにでも引っかかったように、画面がフラッシュして、一瞬目が眩んだ。
「なっ……! どうしたんだ!?」
歪む画面。徐々に表れる毒々しい色。――気がつくと電脳街の様子が一変してしまっていた。
細い裏道まで、電脳街はけっこう歩いているはずだけど、こんな妙な場所は見たこともない。
しかも、やけにリアルなのだ。
なにより奇妙なのは、その点だった。まるで実際に、リアル秋葉原の街角にいるような臨場感。
マウスを持っているはずの右手を見ると、いましがた買ったメモリの入った紙袋を提げていて、その重みさえ確かに感じる。
電脳街ではなくて、リアル秋葉原に買い物に来たんだっけ――と、ぼくは錯覚してしまった。
あとで分かったことだけど、さっきのブラクラのような衝撃は、珍しく冬の雷雲が発生してウチのすぐそばに落雷があったせいなのだった。
雷の直後には雹が降ってきて、その後大雪となり、相当な荒れ模様だったらしい。
瞬断と過電流でマシンが暴走し、ネットワーク回線にノイズの嵐が吹き荒れ、ぼく自身も一瞬気を失った。
それでこんな、夢とも現ともつかない、トワイライトな世界に引きずり込まれてしまったのだった。 |